松山地方裁判所 昭和23年(行)31号 判決
原告 吉田邦夫
被告 宇和島市長
一、主 文
原告の請求はいずれもこれを棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は第一次的請求として、被告が宇和島市丸の内一番地の四三四、宅地百三坪二合につき、吉田亮太郎に対して昭和二十二年十二月八日附でなした換地予定地指定処分及び昭和二十三年二月二十六日附でなした換地予定地変更指定処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を、予備的請求として、右各指定処分はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求め、第一次的請求の原因として、被告は、宇和島市丸の内一番地の四三四、宅地百三坪二合(以下本件宅地と称す)を訴外吉田亮太郎の所有地として同訴外人に対し、昭和二十二年十二月八日附で、本件宅地の換地予定地の指定を、昭和二十三年二月二十六日附で、右換地予定地の変更指定を、それぞれなした。然しながら原告は、昭和二十一年九月七日、宇和島市丸の内当時の地番、一番地の五五、宅地二百二十三坪二合五勺を、訴外船田長太郎と共同で、訴外合名会社堀部本店から買受け、その後区画整理のため、右宅地の一部が道路敷地に編入せられ、残地が百七十五坪七合四勺となつたところ、これを丸の内一番地の五五、宅地七十二坪五合四勺と、同一番地の四三四宅地百三坪二合即ち本件宅地とに分割し、前者を船田長太郎が、後者を原告が、それぞれ取得することとし、昭和二十三年四月二十六日、訴外合名会社堀部本店より所有権移転登記をうけた。従つて、本件宅地は原告の所有に属するにも拘らず、従前の土地の所有者である原告に対し何等の通知もなさず、本件宅地に何等の権利を有しない訴外吉田亮太郎に対し、右宅地を同訴外人の所有地であるとして、なした本件各指定処分はいずれも無効である。予備的請求の原因として、仮りに無効でないとしても、本件各指定処分の結果本件宅地のうち、結局原告の所有を離れることになる十四坪六合七勺の部分は、宇和島市の繁華街に面しているが、これに対し、新たに交付される結果となる十四坪九合の土地は閑地であつて前者より劣位にあるうえ、本件宅地にある原告方家屋の裏口台所から道路へ出入することも出来なくなる不便があるから本件各指定処分はいずれも宅地の利用価値を無視した違法な処分であつて取消さるべきである。仍つて、原告は第一次的に右各指定処分の無効確認を、予備的に右各処分の取消を求めるため本訴に及んだと陳述した(立証省略)。
被告訴訟代理人は、原告の第一次的請求に対する本案前の抗弁として、被告は、所有権者吉田亮太郎の届出により同人に対し換地予定地の指定をなしているものであつて、原告は本件指定処分後の昭和二十三年四月に本件宅地の所有権移転登記をうけたものであるから、被告に対し、所有権の届出をなせば換地予定地の指定をうけ得るに拘らず、届出をしないのであるから、今直ちに訴を提起する利益はない。仍て訴は却下せらるべきであると述べ、本案につき、原告の第一次的及び予備的の各請求に対し、いずれも原告の請求を棄却する旨の判決を求め、答弁として、原告主張事実のうち、被告が本件宅地を訴外吉田亮太郎の所有地として、同訴外人に対し、昭和二十二年十二月八日附で、本件宅地の換地予定地の指定を、昭和二十三年二月二十六日附で換地予定地の変更指定をそれぞれなしたこと宇和島市丸の内、当時の地番、一番地の五五宅地二百二十三坪二合五勺の一部が区画整理のため道路敷地に編入せられ、その残地百七十五坪七合四勺が一番地の五五、七十二坪五合四勺と、同番地の四三四、百三坪二合即ち本件宅地とに分割せられ前者を訴外船田長太郎が、後者を原告が取得することとして、昭和二十三年四月二十六日訴外合名会社堀部本店より所有権移転の登記をうけたこと及び原告に対しては本件宅地の換地予定地の指定通知をしていないことは認めるが、昭和二十一年九月七日、宇和島市丸の内当時の地番、一番地の五五、宅地二百二十三坪二合五勺は原告の父吉田亮太郎が訴外船田長太郎と共同で合名会社堀部本店から買受けたものであつて、原告が買受けたものでなく、従つて本件指定当時、吉田亮太郎は本件宅地について所有権を有していたが、原告は所有権を有していなかつたのである。而して本件宅地を吉田亮太郎と、船田長太郎が共同で合名会社堀部本店より買受けた旨三者連名で昭和二十二年十一月七日被告に対し届出たので、被告は訴外吉田亮太郎が本件宅地について所有権を有するものとして、同人に対し本件各指定処分をなしたものであつて何等違法はない。かりにその後、原告が父吉田亮太郎から本件宅地を転得したとするも、原告は被告に対しその旨の届出をしていないから、被告に対抗できない。従つていずれにしても、本件指定処分に無効の瑕疵はない。また区画整理前は、本件宅地の東側は約六米幅の道路があつたが、区画整理の後、北海面は埋立られて宅地となり、該道路は幅員二十米に拡張せられて人車の往来著しく増加し、北側も海面の埋立によつて道路が貫通し交通の要路となつたので、土地の評価価格も著しく上昇し、結局原告は本件処分によつて宅地価格の上昇による利益をうけたものであり、裏出入口が狭隘になつても、本件宅地で父亮太郎の経営している飲食店営業には何等支障なく、原告は現在高知県において歯科医を営んでいるのであるから、その営業上何等の不利益はない。従つて本件各処分に取消の瑕疵もないと陳述した(立証省略)。
三、理 由
(一) 被告の本案前の抗弁について
特別都市計画法に基く換地予定地指定処分に際し、所有権変更の届出を被告に対してなしていない者は自己の所有土地に対する換地予定地指定処分の効力を争うための訴を提起できないという道理はなく、且、原告は本件各指定処分当時自己が本件宅地の所有者であつたと主張し、本件宅地についてなされた各指定処分の無効の確認を求めていることは、その主張から明白だから訴の利益あることは言うを俟たないところであり、従つて、被告の本案前の抗弁は理由がない。
(二) 本案について
被告が本件宅地を訴外吉田亮太郎の所有地として、同訴外人に対し、昭和二十二年十二月八日附で、本件宅地の換地予定地の指定を、昭和二十三年二月二十六日附で換地予定地の変更指定を、それぞれなしたことは当事者間に争がない。原告は、本件各処分は無効であると主張するのであるが、証人浅井徳蔵の証言及び同証言と弁論の全趣旨によつて真正に成立したと認められる乙第二号証を総合するときは、昭和二十一年九月七日宇和島市丸の内当時の地番一番地の五五宅地二百二十三坪二合五勺を訴外船田長太郎と共同で合名会社堀部本店より買受けたのは、原告でなく、原告の父吉田亮太郎であることが認められ、甲第一号証も、同証言に照すときは、右認定を左右するに足る証左たりえない。而してその後右宅地の一部が区画整理のため道路敷地に編入され、残地が百七十五坪七合四勺となつたことは当事者間に争いのないところであり、右残地について、昭和二十二年十一月七日、新所有権者吉田亮太郎、船田長太郎、旧所有権者合名会社堀部本店として、三者連名で、被告に対し土地所有権変更届を提出したことは、乙第二号証及び証人加納綱雄の証言によつて認められるところであり、本件宅地が右残地百七十五坪七合四勺の一部であることは、当事者間に争のないところであるから、昭和二十二年十一月七日現在においては、原告ではなく原告の父吉田亮太郎が、船田長太郎と本件土地を共有していたと認めるの外なく、本件換地予定地指定処分のなされたのは昭和二十二年十二月十八日、同変更指定のなされたのは昭和二十三年二月二十六日であるから、前記所有権変更の届出のされた昭和二十二年十一月七日から約一ケ月乃至三月しか経過しておらず、且その期間内に本件宅地の所有権に変動があつたことを認むべき特別の事情もないから、如上の事情を総合すれば、本件各指定処分当時、原告の父吉田亮太郎が本件宅地について所有権を有していたもので原告は所有権を有していなかつたことが推認せられる。而して右認定をさまたげるに足る証拠はない。従つて訴外吉田亮太郎を本件宅地の所有者として、同訴外人に対してなした本件各指定処分には原告主張の如き無効の瑕疵はない。仍つて原告の第一次的請求は理由がない。
次に、原告の予備的請求について考えてみるのに、昭和二十三年四月二十六日原告が本件宅地について訴外合名会社堀部本店より直接所有権移転登記をうけたことは当事者間に争のないところであり、反証のない本件においては、右日時、原告は本件宅地を、父亮太郎より転得したものと認むべきところ検証の結果によれば、本件換地予定地は、その大部分が従前の土地の大部分に重なるように指定せられており、従前の土地で換地予定地に含まれていない部分(取上げられる部分)は、西側が道路を距てて内港に面しているのに反し換地予定地のうち従前の土地を含んでいない部分(新たに交付せられる部分)は、その周囲はいずれも道路に面しておらず、道路から奥に入りこんでいて、後者は前者に比し利用価値が極めて低いうえ本件処分の結果、従前の宅地上の家屋の裏口から道路へ出るのに辛うじて、通行できる程度の空地しか残らなくなつたことが認められるけれども、右のように、新に交付されて利用価値の低い部分は、換地予定地のうち一部分にすぎず、大部分は従前の宅地がそのまま換地予定地に指定されたのであるから換地予定地全体としては、従前の宅地に比し利用価値において大差はないと考えられるのみならず、成立に争ない乙第三号証及び証人加納綱雄の証言によれば、本件換地予定地は、区画整理後は、内港の埋立、幹線道路の貫通によつて、区画整理前に比し地価が著しく上昇していることが認められるから、これらの事情を考え合するときは、本件各指定処分に著しい不当はなく、換地指定の準拠となると解せられる耕地整理法第三十条の適用について、被告の有する裁量権の範囲内の処分であるといわなければならない。従つて、本件各処分に取消の瑕疵はないから、その取消を求める原告の予備的請求もまた理由がない。
仍つて原告の請求はいずれもこれを棄却することにし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十五条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 伊東甲子一 橘盛行 荻田健治郎)